雇用切りを告げられてから数日後、 私は直属の上司に呼び出された。
部屋に入った瞬間、上司は言葉より先に、 ぽろりと涙をこぼした。
「……ごめんね」
その一言に、胸の奥がざわついた。 文句のひとつでも言いたい気持ちはあった。 けれど、この上司は職場で一番私に親切にしてくれた人。 だから私は、精一杯の強がりを口にした。
「恨んでなんかいません。 一緒に働かせていただいたこと、感謝しています」
そう言いながら、心の奥では別の言葉が渦巻いていた。
──本当の理由を知りたい。
「雇用切りの理由が“テストの結果”なんて、 どうしても信じられません。 今回の結果は、試験を受ける前から決まっていたんですよね?」
最初は否定していた上司だったが、 やがて涙を流しながら、ゆっくりとうなずいた。
そして、ぽつりぽつりと真実を語り始めた。
■ 年齢──薄々気づいていた理由
理由のひとつは、年齢。 それは、私自身も薄々分かっていた。
けれど、それだけではなかった。
■ もっと大きな理由──“意見したこと”と“立場の逆転”
一番偉い上司に私が意見したこと。 それが、上層部の逆鱗に触れたのだという。
さらにもうひとつ。
会計年度の同僚たちが、正規職員ではなく私に仕事の相談をするようになり、 会計年度の範疇を超えて行動していると見なされたこと。
私の働いていた係では、正規職員の多くが新採で、 実務経験はむしろ会計年度職員のほうが長かった。 現実として、正規職員より会計年度の仕事量が圧倒的に多い状態だった。
しかも、仕事で困っても助けてくれる正規職員はほとんどいない。 その結果、会計年度の仲間同士でさえギスギスし、 仕事の押し付け合いが起こり始めていた。
さらに追い打ちをかけるように、 正規職員が若い子に仕事を押しつけてサボることもあり、 その負担に耐えられず心を病んでいく子まで出てしまった。
そんな状況の中で──
「助けてください」
涙を浮かべて訴えてくる若い子を、 私が見捨てられるはずがなかった。
私はただ、年下の同僚たちを守りたかった。 その一心で上司に進言した。
──それが、上司の逆鱗に触れた。
「……泣きたいのは、私のほうですよ」
心の中でそうつぶやいた。
■ 涙の「ごめんなさい」が空しく聞こえた
けれど、目の前の上司にも立場がある。 上司だって、自分より上の人には何も言えないのだろう。
「本当に、ごめんなさい」
涙を流しながら告げられたその言葉は、 申し訳ないが私には空しく聞こえた。



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